あの日にかえりたい 時間の不可逆性を考える。

 

 

本日は時間の不可逆性について考えていたら、思いついた小話問答です。
最後に質問しますので、たのしく読んでみてください。

 

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 ♪ 泣きながらちぎった写真を 手のひらで 繋げてみるの
   悩みなき きのうのほほえみ わけもなくにくらしいのよ

   青春の後姿を 人はみな忘れてしまう
   あのころの 私に戻って あなたに会いたい ♪

 


2015年。あるところに愛し合ったのにある理由で別れた二人がいました。
アーミーな衣装を着た荒井由美が歌う姿。音楽番組の動画。だいぶ昔の歌を2017年の彼女は頬杖をついて聴いています。
 
画面の中でマイクを持っていた司会者が突然、彼女に話しかけます。
「あの日に帰りませんか?今ならお試しもできますよ。」と。

司会者が言うに、ある理由が起きる手前(地点A)に彼女を帰してくれるというのです。
不審そうな目で彼女は司会者を見つめますが、彼女は眼を細めてうなづきます。

 

彼女は過去に戻ってきました。

二人が別れたある理由とは、

彼以外に”彼女が別の恋人つくってしまったこと”だったのです。

 

戻った過去の地点A。それはその別の恋人と出会う手前のシーン。
彼女は鍵を忘れて、彼と一緒に住む部屋に入れなくなっておりました。寒空の下でドアの前で待つも、彼に出したメッセージも返ってこず、北風で身体が冷え切ります。寒さに耐えかねて行ったカフェでたまたま相席した人、つまり別の恋人と出会います。

その時の彼は、彼女のメッセージを確認した瞬間にスマホの電源が切れており、彼は帰路についていた最中でした。あと15分待てば彼は帰ってきていたのでした。

彼女はカフェに行くことを辞めます。そして、彼が帰ってくるであろう道へ向かってゆっくり歩きます。

そこには、大急ぎで駆けてくる彼がいました。


「大丈夫だった?」
「とっても寒かった」
「本当、ごめんね、ちょうど電源が切れてしまって」

彼女は別の恋人と出会うことを回避したのです。

 

その後、二人の生活は続きます。幸せな時間が続くはずでした。そうだと彼女は思っていたのです。

しかし、彼女は自分に違和感を感じるようになります。

「彼の真っ直ぐな愛を受けて自分は果たして良いのだろうか?」
わたしが”したこと”はしなかったことになっていて、彼は知らないだけ。

これは本当に愛なのだろうかと。

彼女は自分が未来から来たことを彼に告げる決心をします。

季節は巡ってまた冬になっていました。

 

「あのね、わたし話したいことがあるの。信じられない話かもしれないんだけど」

彼女は彼に全てを告げました。

彼女の話を聞いて彼は驚かずに、悲しそうな眼をして話し始めました。

「僕も隠していたことがある。」彼は続けます。

「僕も向こうから来たんだ」

 

「僕が来たのは君のいた今よりも、もっと先なんだ。僕と君はあのあと再び出会って、永遠も誓った。でも、僕は君の事を深く信じることが出来なかった。たくさん君のことを傷つけてしまった。そして、君は僕よりもとても早くに逝った。僕はずっと罪の意識に苛まれ、そのまま年を重ねていったんだ。」

 

「だから僕は、君があの人に出会う前に帰って君をしっかり愛したかった。何も無いままに君と過ごしたかった。運命はすごく残酷で当然なのかもしれない。僕の時代で、過去に帰るときには二つのルールがある。」

 

「ひとつは記憶をもったまま帰るためには当事者たちが戻りたいと最初に思った地点からしか戻れない。それが、君があの男と別れたあとだったのはもちろん分かっていたよ。そしてもう一つは、出発地点からの余命を持っていくことになる。」

 彼女を彼は抱きしめます。強く。彼女は懐かしさに身を焦がします。

「僕は君を愛している。君が罪の意識に苛まれることはないんだよ。しょうがないことなんだ。なにも心配しなくていいんだ。やり直そう。」


彼女は彼を見つめて、涙を流します。


「ごめんね、それは出来ないの。」

「わたしは、それだと、あなたの過去の中に生きているようなものなの。過去は甘くてきれいだけれど。わたしがしようとしたこととおなじ。」

「あなたとわたしは違う人生を歩んでいくの。」

彼女を抱きしめた腕が離れる。


「あなたが愛しているって知れて、とっても嬉しかった」

「さようなら」

 

 


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「さて、ご契約条件のご確認はよろしいでしょうか?」

画面の司会者に向かって彼女は言います。

「ええ。お願いします。」
「お客様の余命は、お手数料を差し引きまして丁度、6時間と53分です。」


ゆっくりとうなずく彼女。手元には契約書が渡されます。

「では、書名欄にサインをお願い致します。」

 

「ありがとうございます。これでちゃんとさよならが言えるかな。」


そして、ペンを握る彼女。

 

 

 

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丁度昨日、いつもつるんでいる友人たちとリボン思考(ブレインストーミング法の一種)のWSに参加してきました。
お題は恋愛についてだったのですが、「恋愛は時間的対称性が崩れる」という言葉に辿りつきました。
厳密に言うと、これは時間の不可逆性の話なのかなと後で思い、悶々と考えていたところ浮かんだ書きかけの寓話です。

 

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ある条件によって、時間の可逆性を得た話です。

この画像がプロットを考えている初期段階のメモなのですが、(現在進行中)
どの時点で話を終わらせるかで、希望感や幸福感が変わってくることに気づいた次第です。寿命という絶対量を可逆性のある時間の中でどのように使うかが人生だとすれば、個人の親密さや、いわゆる縁の深さはどのようになっていくのだろう?と。

 

創世記のエデン(楽園)において時間は可逆性を持っていた状態とも言えます。禁断の果実リンゴを食べて分別を知り、有限という原罪(死)を持って人間は不可逆である時間の世界、地上に追放されます。その原罪の克服のために男性と女性は生命を営み続ける。いわば、その生命のらせん上に恋愛も存在するわけなのでしょう。


有限性(寿命)を渡すことで、時間の可逆性を得た男女の愛とは。

このらせん状では何といいましょうか?
結構これ、思考の深淵に入っていけるのです。悶々と。

 

そんなわけで、 さて、問題です。

 

問1
「この話寓話、彼と彼女は何回どのような状態で、過去と未来の行き来をしたと考えますか?」

問2
「また、彼と彼女らの移動回数をそれぞれn回、m回とすると、最終的にお互いをどのように想っていると考えますか?」


悶々とした秋の夜長の思考の迷路へようこそ^^。