真夜中の指揮官 制作メモ 2018.05.25

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2018.05.25
AM0:08

 

余計なことを考えないように仕事で身体を疲れさせてベットに倒れこむが、起きてしまう。
頭のなかでもやもやしている部分が不気味な音を立て始める。

 

もし、あの人を失ったら、お前はどうする?
まだ絵を描いてるんですか?
嫌われるのがこわい。

 

何種類も同じような言葉がループして気が狂いそうになる。
暗くしている部屋にぼんやりと浮かぶ絵。
眼を開けて、絵を眺める。監守が命令してくる。

 

何をしてるんだ!筆を進めろ!

もやもやしている不安の正体を見極めろ!

絵から逃げるな!自分の弱さに負けるな!

 

と。張り上げた声が頭のなかで響く。
身体を起こして、筆を持つ。


人物の部分を描き始める。次はそこを描くのは分かっていても、さわるのを躊躇っていた部分だ。

 

その時がきた時は、従って描かなきゃいけない。絵は生き物だから。

朝だろうと、夜中だろうと、目の前にいて呼ばれたら真摯に答えなきゃいけない。

 

筆を持って、じっと画面を眺める。

今描こうとしているこの人は、どういう表情をして、身体をして役割を持ってるか定まっていない人でもあった。


けれど、この絵のイニシアチブを取る人なのは確実な人でもある。

 

その登場人物が男性なのか女性なのか、誰なのか。何を言っているのか。最初、絵の中の彼女は元々男性で、老いた指導者のような人物にしようとエスキースを描いていた。
けれども、それじゃあ全然弱い。もっと強くて自分たちに対して絶対的な人物じゃなきゃいけない。カドミウム系の不透明色の赤とアンバーを混ぜながら、筆を進めていく。


指先の向きや、手が示す表情を、ひとつひとつ絵がしてほしいことは何なのか、探っていく。

 

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AM1:12

画面の中に四本の腕を持った女性が現れる。
じっと彼女を眺めてみる。

 

もう、顔を描ける。描け!

 

彼女に顔が出来た。
この絵で初めて顔を持った人が現れた。
この人が絵のイニシアチブを取るのは間違いない。

不思議と、もやもやしていた時にループしていたものが消えていた。ベットに倒れこむ。
やっと眠りにつける。

 

 

 

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AM5:13

心強い指揮官が画面に居る。静かな朝だ。
彼女のおかげで、この部屋が守られた場所のように感じる。油絵の具の匂いと、平積みになってる本たち。自分に埋め尽くされてる。

 

絵は、精神と心のスポーツだと、大先輩の作家さんが言っていた。
一人で描く絵画という競技は個人技だ。

 

限界まで物凄い速さで走っていったり、
物凄い重さのものを持ち上げたり、
何処までも高く、遠くへ跳ぼうとしたり。
とても長い距離を走ったりするような。

 

私の友だちで車椅子レースの選手がいるのだけれども、彼とは初めて会ってちょっと話したら、一瞬でお互いのことがよく分かった。不思議だった。


同じようなことをやってるからだ。身体に無い部分があるからそれを超えるための、凄まじい筋力をつけなきゃいけない。

 

「僕には、これしか出来ないんです」

 

あっけらかんと笑って言う彼と、後ろで微笑んでいる彼女さんがちょっと羨ましかった。

 

描き切るまでともかく一人で戦う。

私の好きなことだ。